2010年4月24日土曜日

死んじゃうかもしれないからな(写真を撮っておこう)     『凍』--沢木耕太郎--

妙子は、上の支点で使ったハーケンなどを回収し、慎重に降りてきた。
見上げている山野井に、妙子の靴の裏が大きく見えてきた。あと、三、四
メートルでここに着くだろう。妙子をこの急な崖のどこに迎え入れるか。
山野井がそう思って視線を上に向けた瞬間だった。
腹の底に響きわたる低い音と共に、激しい勢いで雪の塊が覆いかぶさって
きた。雪崩だった。(妙子は)雪崩に直撃されていたのだ。
雪の塊に体を吹き飛ばされながら、山野井は必死に叫んでいた。
「止めてやるぞ!」
しかし、妙子を確保しているロープは・・・・・


『垂直の記憶』に続いて山野井泰史に関する本その2
作家・沢木耕太郎が書いた『凍』です。
『垂直の記憶』にも出てきた”ギャチュンカン登攀”に特にフォーカス
しているノンフィクションです。




読み終わってまず思ったのは

泰史・妙子夫妻のお互いに対する


信頼がすごい!




高度7,000mでお尻しかのっからないようなテラスでのビバーグ。
山の事に関しては泰史に絶対の信頼を置いているので不安はない
という妙子。

妙子と一緒にクライミングに行くのは妻だから、ではなく優秀な
クライマーだからという山野井。
(妙子がかなりすごいクライマーだというのは本書を読んでると
分かります。)

第三者の視点で山野井夫婦の関係を書いてるところは『垂直の記憶』
にはなかったことなので新鮮です。
共同装備は同じくらいの重さを持ってスタートするそうですが、
時間が進むにつれ軽くなっていくもの(燃料、食料)は妙子、
重くなっていくもの(テントなど)は山野井、と分担するところや
『いい山の頂上に妙子を立たせてやりたい』という山野井の優しさ
にはグっとくるものがあります。



この2人もすごいけど、沢木耕太郎の描写もすごい!
極北のノンフィクションという言葉に疑い無し。
間違いなく名作です!!

アタック前日の山野井のピリピリとした緊張感について書いてるところは、
こちらが生唾を飲み込んでしまうくらいです。

また、↓のところはクライマーの気持ちをよく表してると思う。

しかし、山頂を見上げると、雪が降っているにもかかわらず、
西から強い風が吹き、雲が流れ、青空が見える瞬間すらある。
すべてが美しかった。
早く頂上にたどり着きたい。しかし、この甘美な時間が味わえるなら
まだたどり着くなくてもいい。


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あまり期待しすぎないということは、クライマーの習性と言える。
登っていてもうそこが山頂だと思っていると、手前のコブだったりする、
だからすべてが終わるまであまり期待しすぎないようにするのだ。


沢木は『登山経験はまったくない』そうだが、なぜここまで書けるのか。
全く沢木の才能には舌を巻く。(ここのところ神谷さん風)

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