2011年1月6日木曜日

劔岳 早月尾根



1月3日 14:30 劔岳の頂上から早月尾根を下山開始する。
頂上直下のガリーを顔を壁側に向けてクライムダウンを始めた矢先、
左足とピッケルを持った右手が壁から離れた。バランスを崩し体が
背中側にフラッと流れたような気がした。慌てて目の前にあった
残置スリングを掴む。

今、、、滑落しかけた・・・・よネ??

体勢を立て直し、下を覗いてみる。
音もなく、し〜〜んとしている。
もし、滑落したら池ノ谷と東太谷のどちらに落ちたのだろうか??
どっちに落ちても秋まで死体は浮かんでこないのだろうか??

なんでこんなところに来てしまったのだろう?
心の底から後悔した。
早月小屋の近くに張ったテントを出発したのが7:30。
それから、7時間が経過しているが、体はまだ山頂の近くにあり
テントに辿り着くのはかなり先のように思えた。
一番、気温の高いはずのこの時間帯でも手元の温度計はマイナス15℃。
風が弱いため体感温度はそれほど寒く感じないがこれから気温は下が
っていく一方である。
登頂はなんとかできたが、心身共に疲労困憊で山頂からの素晴らしい
景色を楽しむ余裕は全くなく、せっかく持ってきたカメラを取り出す
気力もない。今の望みはテントで暖かいコーヒーを飲み、シュラフの
中でぬくぬくと眠りたい。そんなささやかな希望も、もしかしたら現
実にならないかもしれない。そう思ってしまう。

冬の劔は自分には早過ぎたのだ。
技術、体力、精神の全てで自分の実力を遥かに超えている。
泣きたくなってくる。ここで涙を流したら、涙もすぐに凍ってしまう
のだろうか。

でも無事に帰らなくては。
冷静に気持ちを立て直そう。テントまで無事に帰る。これは今の自分
には遠い目標に思える。こういう時は仕事でいつもやっているように
大きな目標を小さなタスクに分解してみよう。
今、自分がやらなくてはいけないこと、できることに集中しよう。
まず、このガリーをちゃんと降りてみよう。この局面だけに限れば
過去にもこういう場面は何回もあった。

まず次に自分の足を置く位置を確認してから足を置く。その時にアイ
ゼンが壁から剥がれないように踵は必ず下げる。ピッケルのピックが
効いていることを目で確認する。この繰り返しで降りられるはずだ。



メンバー:カネコ(L)、あけちさん(SL)、イイヅカ、わたなべ、かいちょう


12月30日〜1月4日まで劔岳 早月尾根をピストンしました。
が、上記のように自分にとっては厳しい状況となりました。
5月に源次郎尾根を登れたので大丈夫だろう、と思っていましたが
見通しの甘さを痛感しました。結果的には登頂はできたのですが、
これもひとえに優秀なリーダーのおかげだったと思います。

12月29日
上野発の夜行列車 急行『能登』で出発。

12月30日
上市駅からジャンボタクシーで馬場島方面に向かう。除雪してある
 最終地点でタクシーを降り、馬場島に向かって歩き出す。気温は0℃
くらい。雪がしんしんと降っている。
積雪は50cmくらいか。途中、雪上車に乗った山岳警備隊に抜かれる。
「天気悪いから登頂は難しいと思いますよ。まあ馬場島まで頑張って
ください。」とのこと。
馬場島の派出所で山タンを受け取り、天候や入山パーティーの情報
をもらう。派出所の隣の馬場島荘で水2ℓを補給。初日の荷でただで
さえ重いのに+2kgはきついが、雪を溶かして水を作る手間と燃料の
節約を考えると、水を持って上がったほうが得だと思った。この日は
馬場島からさらに200mくらい上がった、松尾平にテントを張る。
雪は降り続いているものの風はなく、穏やかな夜。
松尾平の積雪は50cmより少し多い。

12月31日
早月小屋を目指して出発。途中、早月小屋の方から降りてくるパー
ティーとすれ違う。新潟大学の山岳部や社会人の山岳会のパーティ
ーなど。これから天候が悪化するだろうという情報をみんな持って
いてあきらめて下山するという。
残っているのは早月小屋の近くで粘っている松本CMCと黒部横断を
しているGIRI-GIRI BOYSだけとのこと。
複数のパーティがしっかりトレースを付けてくれたおかげで順調に
標高を稼ぐ。気温はマイナス2℃くらい。我々は風が強いだろうと
思われる早月小屋の近くにテントを張るのは避け、1900m地点
でテント設営する。
夜のラジオでは、中国地方の大山で記録的な大雪になり、強い冬型
の気圧配置が続くというニュースをやっていた。しかし、我々のい
る場所では雪は降ったり止んだりするものの風はほとんどない。
さりとてこのまま進んで閉じ込められるのも困る。
が、まだ日程は十分に残っている。リーダーの最終判断は天候の回
復が見込める3日にアタックすることにし、1日はここで停滞。
2日に早月小屋にテントを移すということになった。

1月1日
早月尾根で年越し。外を見ると積雪が増え、昨日まであったトレー
スがほとんど消えている。今日はここで停滞といってもすることが
ないので空身で早月小屋方面に向かいトレースを作る。うっすらと
残っているトレースを外すと腰まで埋まってしまう。急斜面では胸
まで埋まる。まさに雪の中を泳ぐような感じ。この時、初めて自分
が劔にいるんだな、と感じた。やはり人のトレースを利用させても
らうだけではつまらない。2時間くらいルート工作を頑張り、早月
小屋が見えた時点で終了。テントまでの帰りは30分くらい。

1月2日
早月小屋に向かって出発。出発時の気温はマイナス5℃。
テントの上にもしっかり雪が積もっていた。50cmくらい。
というわけで昨日、作ったトレースも消えかかっている。
昨日の最終地点までは1時間くらいで着いたが、この先が長かった。
午前中には早月小屋に到着するのでは、と思っていたが予想以上に
時間がかかった。5人で先頭を交代しながらラッセル!ラッセル!
1人目がとにかく雪を削り、2人目が雪を押し固める。
3人目以降はそれに続く。先頭がとにかく大変だ。早月小屋が近づ
いてくると風に乗って香ばしい匂いが漂ってくる。小屋で餅でも焼
いているのだろうか?
小屋まで後、少しというところで山岳警備隊の人に会う。
あちらは空身+スノーシューで雪の上をさくさく移動。
こちらは重荷+わかんで胸まで埋まりながらラッセル。
近くて遠い早月小屋。
早月小屋に到着し、山岳警備隊と情報交換。3日は天気が良くなる
だろうから登頂を目指すなら3日でしょう、とのこと。
松本CMCの2人が2400m地点くらいまで空身で登りトレースを
付けて帰ってきた。彼らも3日にアタックするという。
夜、テントの外に出てみると満点の星空だった。明日の天気に期待。

1月3日
7:30にテントを出発。松本CMCは我々より一足先に出発してい
た。気温はマイナス15℃。天気はよく左後ろには猫又山、右には
立山、奥大日を見ながら順調に進む。松本CMCのトレースを追う。


陽が上り、猫又山がピンクに染まり始める。幻想的な光景だ。


右手には立山・室堂


しばらくすると小窓尾根もばっちり見える。
いつかの岳人の表紙になってたようなアングル。


日が当たるところは、暖かい。



2600m地点で松本CMCに追いつく。


が、写真を撮る余裕を持って進めたのもここまでであった。
この後からが本当の早月尾根が始まったのでした。
(もう少し追加予定)

<<コースタイム>>
12/30
8:00 伊折(0℃)
11:30  馬場島
14:30  松尾平(幕)

12/31
7:30 松尾平(-2℃)
15:00  1,900m(幕)

1/1
1,900mで停滞

1/2
7:30 1,900m(-5℃)
12:30  早月小屋(幕)

1/3
7:30 早月小屋(−15℃)
14:15  劔岳山頂(−15℃)
20:00  早月小屋(幕)

1/4
6:30 早月小屋
11:30  馬場島
14:40  伊折
15:30  上市(タクシー)

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